「薬屋のひとりごと」から黄金比に思いを馳せる 〜植物は正確、では建築は?〜

人気アニメ「薬屋のひとりごと」に出てくる、羅の一族の“羅半”は、世界が数字に見えるという、特殊な能力の持ち主。美しい人や物は美しい数字に見えるといいます。

美しいものには黄金比が隠れている、という話をよく聞きます。自然界にも、建築にも、美術にも。

では、それは本当なのでしょうか。そして、なぜ人はその比率を美しいと感じるのでしょうか。

少し調べてみたら、思っていたのとは違う景色が見えてきました。

目次

そもそも黄金比とは

黄金比は、およそ1対1.618という比率のことです。

一本の線を二つに分けるとき、全体と長いほうの比が、長いほうと短いほうの比と等しくなる——そんな分け方があります。この特別な分け方が黄金比です。

小数で書くと1.618…と延々に続き、割り切れることがありません。

植物は、確かにこの比率で育っている

自然界の例として、いちばん確かなのが植物です。

ひまわりの種の並びを見ると、右巻きと左巻きの二つの渦が見えます。その渦の本数を数えると、一方が34本、もう一方が55本になっていたりします。松ぼっくりなら8本と13本。

この数は、フィボナッチ数列(1、1、2、3、5、8、13、21、34、55…)に出てくる、隣り合った数です。そして隣り合うフィボナッチ数の比は、数が大きくなるほど1.618に近づいていきます。

種や葉が出てくる角度は、およそ137.5度。円を黄金比で分けたときにできる角度で、「黄金角」と呼ばれます。

とても丈夫に育ったひまわりで、渦が233本と144本という個体が報告されたこともあるそうです。

なぜこうなるのか。植物ホルモンの一種であるオーキシンの運ばれ方によって、次の芽が出る位置が決まる——という仕組みが、近年の研究で説明されつつあります。

ただし「なぜその角度なのか」は、まだ分かっていない

面白いのはここからです。

137.5度という角度になる仕組みは研究が進んでいるのですが、なぜその角度なのか、その意味はまだはっきりしていません。

よく言われるのは「葉が重ならず、光をいちばん効率よく受けられるから」という説明です。ただ、これは広くは支持されていないようです。光の受け取り方は、生えている環境や葉の幅、茎の長さといった別の要素のほうが大きく影響するからです。

コンピュータで計算してみると、137.5度は確かに最適な角度の一つではあるものの、同じくらい最適な角度が他にもいくつもある、という結果も出ています。

つまり、植物がこの角度で育つことは事実。けれども、なぜこの角度なのかは未解決。

建築や美術のほうは、少し事情が違う

一方、よく引き合いに出される建築や美術作品のほうは、事情が違うようです。

有名なのがパルテノン神殿です。黄金比で設計されているとよく言われますが、近年の研究では、これは後から当てはめられた話で、実際には正確にその比率にはなっていないとされています。

オウムガイの殻も、黄金比の代表例として登場します。けれども、スミソニアン博物館の標本80個を測った研究によると、比率の平均は1.310でした。1.618とはかなり違います。オウムガイの殻は確かに美しい対数らせんを描きますが、それは黄金比のらせんではないということのようです。

同じことが、絵画や彫刻についても指摘されています。作者が黄金比を意図した証拠が残っているものは、実は多くありません。

もちろん、意図して使った例もあります。建築家ル・コルビュジエは、自ら黄金比を組み込んだ寸法体系を作りました。ただそれは「後から見つかった」のではなく、「先に使った」例です。

そして、人は本当に黄金比を美しいと感じるのか

では、いちばん気になる問いはどうでしょう。

人は黄金比を美しいと感じるように、できているのでしょうか。

19世紀後半、心理学の草分けであるフェヒナーという人が、こんな実験をしました。いろいろな縦横比の長方形を並べて、どれがいちばん好きかを選んでもらう。結果、多くの人が黄金比の長方形を選んだと報告されました。

ところが後年、同じ実験を再現した研究では、正反対の結果が出ました。多数派が選んだのは正方形で、黄金比を選んだのは少数派だったのです。

フェヒナー以降のおよそ150年で、この説を支持する研究と、否定する研究が、ほぼ同じ数だけ積み重なっているそうです。

人が黄金比を特別に好むという説には、いまのところ決め手がない、ということのようです。

同じ赤色を見ても、ある人は深紅に見えるかもしれないし、別の人は朱色に見えるかもしれません。それと同様に、美しいものを直感で認識する人もいれば、数字に結びつけて捉える人もいるのかもしれません。光も色も音も、周波数であり、同時に数字です。

そう考えると、“世界が数字に見える”というのは、あながち荒唐無稽なことでもない——そんなふうに思えてきます。

昨年始めに動画配信で「薬屋のひとりごと」を初めて視聴し、その面白さにすっかりはまってしまいました。今年10月からは第3期が放映、秋の楽しみが一つ増えます😊

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