出会ったばかりの人なのに、なぜか懐かしさを感じる。そのような経験を持つ人は、案外多いのではないでしょうか。私自身も、そう感じる人に何人も出会ってきました。
親しみ、懐かしさ、安心感。よく考えてみると、それらの感覚は、いつも相手の「瞳」から伝わってくるのです。
白目を持つのは人間だけ
瞳に何かを感じるのはなぜなのか。まずは、目そのものの形から調べてみました。
1997年、京都大学の研究者たちは、霊長類の半数近くの種の目を比べました。すると、黒目のまわりの白目に色素がなく、真っ白なのは人間だけだったのです。チンパンジーやゴリラなど、ほとんどの霊長類の白目は、焦げ茶色をしています。
さらに人間の目は、目の中で白目が占める割合が大きく、輪郭も横長です。白目が白く、しかも広いことで、黒目との対比がはっきりして、相手がどこを見ているのかがすぐに分かります。
人間の目は、自分の視線を相手に伝えるための「信号」として進化したのではないか。そう考える研究者たちの説は、「協力的な眼」仮説と呼ばれています。
私たちは、相手に視線を読まれる目を持って生まれてきたのでしょうか。隠すためではなく、伝え合うための目。そう考えると、瞳に何かを感じるのは、とても自然なことのように思えてきます。
見つめ合いは親しみのしるし

面白いと思ったのは、そもそも動物は見つめ合わないということでした。多くの動物にとって、相手をじっと見ることは威嚇を意味するからです。山でサルに出会ったら目を合わせないように、とよく言われるのもそのためなのです。
それに対して人間は、見つめ合うことを親しみのしるしとしても使っています。
興味深いのは、人と長く暮らしてきた犬にもそれが通じるそうです。麻布大学の研究では、犬と飼い主が見つめ合うことをきっかけに、絆に関わるホルモン「オキシトシン」が互いに高まり、親しみのやりとりが循環していく様子が確かめられています。
目と目が合うとき、脳の中で起きていること
では、人と人が見つめ合うとき、脳の中では何が起きているのでしょう。
2015年、生理学研究所の定藤規弘教授らのグループは、2人の脳の活動を同時に測る方法で、この問いに迫りました。その結果、2人が見つめ合い、互いに注意を向け合うと、脳の活動パターンが同じように変化することが分かったのです。
定藤教授は、「見つめ合って注意を共有することには、その後のコミュニケーションを円滑に始める働きがあるのかもしれない」と述べています。「目と目で通じ合う」という言葉は、あながち比喩ではないのかもしれません。
1分間見つめ合ったワーク
今から10年以上前のことですが、あるワークショップで、相手の瞳の中に善なるものを見出すというワークをしたことがあります。1分間相手と向き合い、目と目を合わせるのです。
最初は慣れなくて、思わず吹き出してしまいそうになりました。けれども、だんだん慣れてくると、何か直感的なものが降ってくるような感覚がありました。涙があふれる人もいて、ワークが終わる頃には、部屋のゴミ箱がティッシュペーパーで一杯になっていたのを覚えています。
あのとき何が起きていたのか。今回一つの実験が見つかりました。
1989年に行われた心理学の研究で、初対面の男女に2分間、互いの目を見つめ合ってもらったところ、相手への好意や親しみの気持ちが高まったというのです。
手を見つめ合ったり、片方だけが見つめたりした場合には、そうした変化ははっきりとは表れませんでした。
ただ、この効果には個人差があり、表れやすい人とそうでない人がいたことも報告されています。
大切なのは「互いに」見つめ合うこと。あのワークの1分間も、ただ相手を見ていたのではなく、見つめ返されていたからこそ、心が動いたのかもしれません。
瞳は嘘をつけない
もうひとつ、興味深い研究があります。
瞳の中心にある瞳孔は、明るさだけでなく、関心や心の動きによっても、自然に広がったり縮んだりします。
オランダの研究者は、笑顔は作ることができても、瞳孔は意志で動かすことはできない、と述べています。
実験では、相手の瞳孔が広がると、見ている人の瞳孔も無意識のうちにそれにならい、相手を信頼しやすくなる傾向が見られたそうです。
言葉や表情とは別のところで、瞳は静かに、その人の心の動きを映し出しているのかもしれません。
瞳から放たれる光

白目の形、見つめ合いが生む親しみ、脳の同期、そして瞳孔の働き。瞳に何かを感じる理由が、少しずつ見えてきます。
それでも、あの1分間のワークで感じた、魂が揺さぶられるような懐かしさには、それだけでは説明しきれない、何か不思議なものがあるように思うのです。
比喩的な表現ですが、もしかしたらあのとき私は、相手の「瞳から放たれる光」を受け取っていたのかもしれません。
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